
新宿区の新大久保に事務所がある、相続に悩まれている方の解決に力をいれている、弁護士の水谷真実です。
次のようなお悩みについて、考えてみます。

夫が「自宅は息子に相続させる」という遺言書を書く予定です。
私も、それで良いと思っています。
ただ、夫が後から遺言書を書き換えたら、どうなるのでしょうか。公正証書遺言にすれば、安心でしょうか。
公正証書遺言でも、後から変更できます
この場合ですが、公正証書遺言にしても、夫が後から内容を変えることはできます。
遺言は、書いた本人が撤回できるものだからです。「今後は撤回しません」と約束しても、撤回する権利をなくすことはできません。
また、公正証書遺言を作った後に、有効な自筆の遺言書を作り、違う内容を書けば、矛盾する部分は後の遺言が優先されます。
(遺言の撤回)
民法第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。(遺言の撤回権の放棄の禁止)
民法第千二十六条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
夫が生きているうちに、息子に贈与するという方法
そこで考えられるのが、夫が生きているうちに、自宅を息子に贈与する方法です。
贈与をして登記も済ませれば、夫が後から違う遺言を書いても、それだけで自宅を取り戻すことはできません。
ただし、自宅は息子のものになります。夫婦がその後も住み続ける条件を、きちんと決めておく必要があります。
また、贈与税などの負担も確認しなければなりません。贈与税については、国税庁の「財産をもらったとき」でも説明されています。実際に進める前に、税理士さんにも確認すると良いです。
家族信託という方法もあります
もう一つ、「家族信託」を使うことも考えられます。
例えば、夫と息子が契約をして、次のように決める方法です。
- 夫が生きている間は、夫が住むために自宅を使う。
- 息子は、契約で決めた内容に従って自宅を管理する。
- 夫が亡くなったら信託を終え、残った自宅を息子のものにする。
この場合、自宅は、信託のために息子名義へ登記します。ただし、息子が初めから自分の財産として自由に使えるわけではありません。
「自宅を管理する役割」と「自宅に住むなどの利益を受ける立場」を分ける、と考えると分かりやすいでしょう。
そして、夫が一人で契約を変更したり、信託を終わらせたりできないように、契約内容を整えることが考えられます(信託法149条・164条・182条)。
(委託者の地位の移転)
信託法第百四十六条 委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。
2 委託者が二人以上ある信託における前項の規定の適用については、同項中「受託者及び受益者」とあるのは、「他の委託者、受託者及び受益者」とする。(委託者及び受益者の合意等による信託の終了)
信託法第百六十四条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
2 委託者及び受益者が受託者に不利な時期に信託を終了したときは、委託者及び受益者は、受託者の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
3 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
4 委託者が現に存しない場合には、第一項及び第二項の規定は、適用しない。(残余財産の帰属)
信託法第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。
ただ、家族信託という名前の契約をすれば、それで安心というわけではありません。
誰が内容を変えられるのか、どのような場合に終わるのかによって、結果が違ってきます。契約の作成や登記には費用もかかります。
妻が住み続けられるかも大切です
今回の相談では、自宅を息子に渡すことに、奥さんも賛成しています。
ただ、息子に自宅を渡すことと、奥さんが安心して住み続けられることは、分けて考える必要があります。
特に、夫が亡くなった後も奥さんが住みたいのであれば、その希望も含めて仕組みを考えると良いです。
【吹き出し:弁護士水谷】
遺言は、後から変更される可能性があります。
その心配に備える方法として、生前贈与や家族信託が考えられます。ただ、どの方法が合うかは、ご家族の事情によって違います。
「息子に自宅を渡したい」という希望に加えて、「夫婦がこれからどう暮らすか」も一緒に整理して、方法を検討すると良いです。
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